それが死というもの。

 コジマの脳裏に、死について前領主と交わした会話が、蘇る。

「我々は死を悲しまない。死者についての思い出を語らうこともしない」

 滑らかな褐色の肌に琥珀色の瞳をした前領主は、そう言った。

「何故なら、我々は女王の中で永遠に生き続けるからだ。いずれ時が来れば、俺は女王と交わり、女王に喰われる。 肉は彼女の糧となり、血は俺と女王の子供に受け継がれる。他のグールたちも、俺の子供も皆、同じだ。 そうしてグールの血脈は永遠に続く」

ムジカは執務室の窓から下界を見下ろして、続けた。

「所詮は人間も同じことだ。個人というものは、種を繁栄させ、永続させる為の器に過ぎない。それなのに何故、器を失ったくらいで、 いちいち悲しむ必要がある? 我々も死者に犠牲の供物を捧げるが…… 古い時代の愚かなグールが、人間を真似て始めたのだろう。 しかしグールに死者を悼む気持ちはないから、鎮魂の儀と銘打ってはいるが、形ばかりだ」

窓から差し込む光が、鼻梁の通った彼の横顔を照らすのを見ながら、コジマは呟いた。

「……それでは、ムジカ様が死んでも、誰一人、泣く者はいないのですね」

 ムジカは振り向いた。

「そうだ」

彼は笑った。

「ユーラク国民は俺の死を喜ぶだろう。グールたちは鎮魂の供物を捧げ、それきり俺のことは忘れるだろう。そして俺は消える。 女王の体内と、永遠に続くグールの歴史の中へ」

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