車を先導して歩くのは、遺族たちだ。遺影を持っているのは老いた女。遺影に写っている老人は、彼女の夫だろう。老婆の周りを囲むのは 子供や孫か。黒いスカーフとドレスで全身をすっぽり覆い隠した女たちはさめざめと泣き、やはり全身を黒で包んだ男たちは、哀切の呻きを 上げている。
 その中で、娘に付き添われた老女は、遺影を手に、顔が見えないくらいに腰を曲げて、一歩一歩、砂だらけの地面を踏みしめるように 歩いていた。

 葬列の歩みに合わせて、市場は自然に静まっていく。女たちは次々にスカーフで顔を隠し、男たちは項垂れて死者へ送る言葉を唱える。

「これから火葬場に向かうのか」

「そうだな」

カウンターの前から、男たちが低い声で話し合うのが聞こえてくる。

「俺はあの爺さんを知ってる」

と一人が言った。

「孫が―― ほら、喪主に付き添ってる女だよ―― が、前、うちの近所に住んでたんだ。あの爺さんは、婆さんと一緒に、よく遊びに 来てた。と言っても、仏頂面して、犬を撫でてるばっかりだったが。ありゃ、孫に会いに来たと言うより、犬に会いに来てたな」

「何で死んだんだ?」

「さあ。八十歳を超えていると言っていたから、病死か、老衰か…… とにかく、それだけ生きれば十分だったろうよ」

「八十歳かあ」

感嘆したように、もう一人が呟いた。

「それだけ長生きしても、死ねば、周りの人間はああして悲しむんだな」

「そりゃあそうさ」

もう一人が穏やかに答えた。

「どんなに良い死でも悪い死でも、死んだ人間が悪人でも善人でも、残された者は泣き、思い出を語らう。それが死ってもんだよ」

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