コップを見つめたまま、コジマは自問した。私は嬉しいのだろうか。

 分からない。心の中へ手を突っ込んでも、何も掴めない。何かありそうなのに、何も指先に触れない、この感覚。

 ふん、とトーベは鼻を鳴らした。

「ところで、今日は休みなのか」

「……ええ、今日はミト様が、ムジカ様の鎮魂の儀に向かわれているので…… 私もそれに合わせて、休みを」

「だったら、もっと楽しそうな顔をしたまえ。見ろ、この国はムジカが死んで、生まれ変わった。皆、明るい顔をしている」

嘲るように、トーベは言った。

「あなただけが、影のように暗い」

 そう言うと彼は、チノパンのポケットに手を突っ込み、店の軒先から出て行った。

 一人残されたコジマは、ミントティを手にぼんやりと虚空を眺めた。

 と、ラジカセから流れてくる、雑音混じりの音楽が小さくなった。カウンター前にたむろしていた男たちが、ひそひそ囁くのが聞こえてきた。

「葬式だ」

 コジマが顔を上げると、市場に隣接した車道を、ゆっくりと、色とりどりの花で飾られた霊柩車が走ってくるのが見えた。

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