コジマは目を見開いた。 「グールって……」 思わず大声を出しそうになるのを抑え、囁く。 「捕らえたのですか?」 トーベは首を振った。 コジマは体から力が抜けるのを感じた。 「体が弱くて大人しい性質と聞いていたが、とんでもない。いくら大人しくても、やはり獣は獣だ」 「逃がしたのですね」 「左様。しかし、じきに捕まる。ターゲットは、イジドールからボートに乗って逃げた。エンジンもついていなボートでな。 潮流を読めば、どこに漂着するかは分かる。行き着く先は、エイゴンだ」 自信に満ちた口調で言うと、トーベは手にしていたミントティを一気に飲み干し、握り潰した紙コップを地面に放り投げた。 「これから三十六市の国境を越えて、エイゴンへ向かう。早ければ、明日にはケリが着くだろう。ボートの中で、 干乾びていなければいいがな」 それはトーベなりのジョークだったようだが、コジマは何の反応もしなかった。彼女は黙って、テントの外へ転がっていき、 砂まみれになった紙コップを見つめていた。 その表情を見たトーベは、低い声で囁いた。 「どうした、嬉しくないのか?」 嬉しい? -------------------------------------------------- |