コジマは目を見開いた。

「グールって……」

思わず大声を出しそうになるのを抑え、囁く。

「捕らえたのですか?」

 トーベは首を振った。
 コジマは体から力が抜けるのを感じた。

「体が弱くて大人しい性質と聞いていたが、とんでもない。いくら大人しくても、やはり獣は獣だ」

「逃がしたのですね」

「左様。しかし、じきに捕まる。ターゲットは、イジドールからボートに乗って逃げた。エンジンもついていなボートでな。 潮流を読めば、どこに漂着するかは分かる。行き着く先は、エイゴンだ」

 自信に満ちた口調で言うと、トーベは手にしていたミントティを一気に飲み干し、握り潰した紙コップを地面に放り投げた。

「これから三十六市の国境を越えて、エイゴンへ向かう。早ければ、明日にはケリが着くだろう。ボートの中で、 干乾びていなければいいがな」

 それはトーベなりのジョークだったようだが、コジマは何の反応もしなかった。彼女は黙って、テントの外へ転がっていき、 砂まみれになった紙コップを見つめていた。

 その表情を見たトーベは、低い声で囁いた。

「どうした、嬉しくないのか?」

 嬉しい?

--------------------------------------------------
[379]



/ / top
inserted by FC2 system