露天商が軒を連ねる賑やかな市場を、コジマは歩いていった。

 そこはほんの三ヶ月前まで、廃車や犬の死骸など、市民があらゆるゴミを放置していく場所だった。
 しかし今は、ゴミの山は跡形もない。代わりに役所の許可を受けたテントやワゴン車が集まり、新鮮な西瓜や桃、梨などの果物、 安物の衣類、煙草に香水、そして古本や偽のブランド商品など、ありとあらゆる物を商っている。

 コジマは人ごみを縫い、金物屋で新しいボウルとパンナイフを、隣の古本屋で文庫本を二冊買った。 そこで喉の渇きを覚え、ミントティを売っているテントに寄った。

 日よけとカウンターだけの小さな店で、カウンターの上には、透明な薄緑のお茶が入ったガラスのポットと、 陽気な音楽の流れるラジカセが置いてあった。中年男が数人、カウンターの前に立って話していた。 コジマは一枚の硬貨と引き換えに、紙コップに入ったミントティを受け取り、男たちから少し離れたテントの陰で飲もうとした。

「奇遇ですな」

 コジマは顔を上げた。一瞬、誰だか分からなかった。

 それが、見慣れた秘密警察の制服を脱いだ、私服姿のトーベだと気づくと、 コジマは思わず眉をひそめた。

「……その怪我は」

 トーベはにやりと笑おうとしたようだった。だが、縫い合わせたばかりの唇が痛々しく歪み、その間から入れたばかりの金の差し歯が覗く様は、 唸る犬のようにしか見えなかった。

「グールにやられた」

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