タキオとロミは目隠しをして、二台の車に、別々に乗せられた。

「大丈夫だ。殺すつもりなら、もうとっくに殺してる」

 別れ際、タキオはロミの耳元に囁いた。

「大人しくしてろ。何かあったら、絶対に俺が助けてやるから」

 うん、とロミは答えた。怯えてはいるが、その一言を、心から信頼した声だった。

 乗せられた車の乗り心地は、まるで揺り籠に揺すられているかのようだった。座席の革は本物のようだし、 体の大きいタキオが難なく足を伸ばす余裕がある。 領主専用公用車と同レベルだろう、とリラックスして足を伸ばしながら、タキオは高級車特有の良い香りを吸い込んだ。

 目隠しはされていても、方向感覚と聴覚を集中させれば、車の行き先の推測は可能だった。しかしこれから連れて行かれるのは、 世界唯一にして最大の、国境を越えた犯罪組織『世界協定(エイト・フィールド)』の頂点に立つ男。恐らくはこの世の犯罪の 半数以上にかかわり、各国で一億以上の賞金が懸けられている裏社会の帝王。ワトムその人の元である。まさか家で待っているわけもない。 連れて行かれるのは、奴らの息のかかったホテルか、無数にあるアジトの一つだろう。

 従って、行き先を推測するだけ無駄。そう考え、タキオは精々、 もう二度と乗れないかもしれない高級車の乗り心地を堪能することにした。

「おい、まさか、寝てないだろうな」

 やがて、一緒に後部座席に座ったオズマが、呟いた。目隠しの下の目蓋を閉じたまま、タキオは答えた。

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