「寝てはいないが、寝そうだ」

「ったく、脳味噌まで鋼で出来てんのか?」

 オズマが舌打ちすると、腰の刀が鳴った。

「こっちは連日ストーカーに付き纏われて、疲れてんだよ」

「そうかよ。じゃ、お前が寝ちまう前に、一つ忠告しとくぜ」

 タキオは柔らかな背もたれに体を預けたまま、聞いていた。

「今、ワトムの機嫌は最高に良い。けど、ボスの機嫌はちょっとしたことで急変する。そのスイッチは俺たちにもよく分からないくらいだ。 お前は多分、確実にボスをキレさせると思う」

「何だよ。俺を心配してくれるのか?」

「違ーよ。ボスがキレると、周りの人間がとばっちりを受けるんだ。今までそれで、何人無関係な奴が死んだか」

 オズマの声が低くなる。

「生きて帰りたきゃ、ボスの前では極力大人しくしろ。それでも駄目だった時の為に、 奴の秘密を教えといてやる。いざとなったら、その秘密を盾にしろ」

 秘密? と目を開けたタキオの耳元に、ほとんど聞き取れないくらいの声で「秘密」が囁かれる。
 一瞬の間の後、タキオは思わず目を丸くし、オズマの方を向いた。

「どうしてお前がそんなこと知ってるんだ」

 オズマは簡単にその理由を告げた。その理由も驚きだったが、タキオは納得し、それ以上尋ねなかった。

 本当は、何故そこまで親切に教えてくれるのか、その理由も知りたかったのだが、聞けば面倒臭いことになりそうな気がして、 止めた。

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