途中二回のトイレ休憩を挟み、車は実に、六時間近くの道のりを走った。予想以上に長いドライブに飽きたタキオは、 途中で本当に寝てしまい、三回目に起こされた時も「いいよ、俺は。寝させてくれ」と寝ぼけ眼で口走る始末だった。

「休憩じゃねーよ。到着だ」

 オズマに乱暴に押され、欠伸をしながら、タキオは車から降りた。と、途端に、ロミが勢いよく飛びついてきた。

「タキオ!」

「うおっ、と。大丈夫だったか」

「うん。それより見て、あれ!」

疲れと興奮で、ロミの顔は赤く火照っている。タキオはロミに抱きつかれたまま、彼女の指し示す方を見上げた。と同時に思わず、 彼の口からも息が漏れた。

 彼らの目の前に、巨大な、ガラスの温室が建っていた。母亀が子亀を背負ったような、丸みのある洒落た形をしていて、 無数の鉄骨が、計算された芸術的な放射線と交差を描いている。その間に嵌った何千枚というガラスが、青空を映している。 大きさは、野球のスタジアム程もあるだろうか。

 大きさと言い形と言い、温室と言うより宮殿だ。 流石のタキオも一度は目を奪われたが、しかしロミのようにいつまでも見惚れることはなく、すぐに周囲を見回し、 現在位置を把握しようとした。宮殿のすぐ後ろには、円錐形の灰色の山が、青空を背景に聳えている。周囲にはススキ野原が荒涼と 広がるばかりで、人の住んでいる気配はない。恐らくは周辺一体が私有地か。
 しかし考える暇もなく、オズマに小突かれ、タキオとロミは温室に向かって歩き出した。

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