芝生は色を失い、木枯らしに吹かれて木の葉舞う庭を、黒服たちに囲まれて歩いていくと、次第に温室の中が、 濃い緑で満ち溢れている様子が見えてきた。

 正面の自動扉から中へ入った二人を、中で待ち構えていた百人近い黒服たちの、警戒心と敵意と殺意が迎えた。八人の屈強な男が 前後左右を囲み、さらに通路の両脇には銃を持った男たちが等間隔で並んで、瞬きもせずこちらを注視している。

 しかし温室の内部は、素晴らしかった。まず、入った瞬間に、春の陽だまりのような暖かさが、二人を包んだ。 そして、ガラスを通して燦々と降り注ぐ陽光の中で、無数の熱帯植物たちが、ジャングルのように生い茂っていた。
 途方もなく高い天井に向かって 伸びる椰子の木、ロミの背丈程もあるシダ、真っ赤なハイビスカス、食虫植物。何の花の匂いか、漂ってくる濃い甘い香り。 その上を飛び交うのは、宝石のような色彩の蝶々、放し飼いにされた鸚鵡やインコだ。

 あまりに浮世離れした世界、それに過剰な警戒態勢に、若干の滑稽さを覚えながら、タキオは進んでいった。
 その気持ちは、温室の一番奥に辿り着いた途端、果てしない馬鹿馬鹿しさに変わった。

 青い水をたたえた広いプールの縁に、恐竜が立っていた。象よりも太い四本の足、ごわついた臙脂色の皮膚、果てしなく長い首の先に抱えるような 頭を持った、巨大な首長竜が。

「いやっほおおおおおう!」

 そして、水を飲むような格好でプールに向けて頭を下ろした首長竜の、その首を、海水パンツを履いた老人が、 滑り降りていた。

 老人が恐竜の頭から、豚のような格好でプールに飛び込むと、派手な水飛沫が上がった。

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