傍らのロミが口をあんぐり開けて立ち尽くす。タキオはロミに同情したが、 そんな二人の背中をオズマがつつき、否応なしにプールサイドへ連れて行く。

「ねえ、あれ、本物?」

「本物の化石に肉と皮をつけた人形だよ」

タキオへ囁かれた質問にオズマが答え、一行は、恐竜の足元で立ち止まった。
 ロミは怯えたようにタキオの ジャンパーの裾を掴み、恐竜を見上げた。首長竜の人形は、逆光で影になり、今にも動き出しそうだ。

「おお、来たか、来たか」

 と、耳障りな音を立てながら、先ほど飛び込んだ老人が、プールサイドへ上がってきた。トドのようにのうたうつ体を、 筋骨隆々とした美丈夫が助け起こし、肉感的な美女がタオルで包む。老人は水滴を撒き散らしながら、恐竜の傍らに据えられた デッキチェアへ行くと、ごろりと横になった。

 陽光に照らされたその顔は、賞金首リストに一億の金額と共に載っている、ワトムその人に間違いなかった。 しかし、掲載されている顔写真とは、あまりに雰囲気が違う。顔はふくよかを通り越して弛み、小さな目は意地汚そうで、 耳からは耳毛が飛び出している。体つきは貧弱で、腹だけがだらしなく膨らんでいる。 海水パンツ一丁でジュースのストローを咥える姿は、 とても裏社会の帝王とは思えない。

「君、こんな温かいところで、何でそんな暑苦しい格好をしているんだね」

 タキオのジャンパーを見て、ワトムは出し抜けに言った。
 余計なお世話だ、とタキオは答えようとしたが、オズマに脛を蹴られ、渋々ジャンパーを脱いだ。

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