トマは首を振った。 「お前の判断は、間違っていなかった。あそこでザネリを止めなければ、イオキは奴の手に落ちていただろう」 そしてトマは静かに、あの夜、テクラを先行させた後、自分たちが見たものを語り出した。 ――テクラがまるで猫のように屋根を駆けていった後を追い、トマたちが採掘場に辿り着いたのは、 暴徒と化したミドガルドオルムの住人たちが蛇神の社に着くのと、ほとんど同時だった。 三人は岩陰に隠れ、社の正面に立ちはだかる巫女と、民衆とのやり取りとを聞いた。イオキがどうやら社の中にいるらしいこと、 巫女が彼を匿っていること、民衆が彼の引渡しを望んでいることを知った。 『でも、テクラは?』 岩一枚隔てて民衆たちが叫ぶ中、ヒヨが囁いた。 『あいつはどこ行ったんだ? イオキと一緒に、中にいるのか?』 松明の明かりに眼鏡を光らせながら、トマは冷静に言った。 『その答えを知る為にも、イオキを救う為にも、社の中に入るしかない』 そこで三人は、群集に見つからないように、社の周りを移動し始めた。群集は裏手までぎっしりと社の敷地に溢れ返り、 一見、彼らに見つからず社に忍び込む方法など、どこにもないように見えた。が、しばらくしてトマが、社の真裏に、 樹齢何百年はありそうな銀杏の木を見つけた。 -------------------------------------------------- |