アリオが何か答えるより早く、女の後ろから、同じ青いツナギを着た老人が顔を出し、 大きな声を上げた。

「てめえ、こんなとこで何してんだ。ここは一般人立ち入り禁止だぞ。おいアイちゃん、下に連絡しろ」

 え、ちょっと待って、とアリオが動こうとすると、女と老人は悲鳴を上げる。

「危ない!」

「動くんじゃねえ! 命綱も付けないで、何考えてんだ! あっ、その袋の中身は何だ! 爆弾か!」

 何百メートルという高所から人が落ちることよりも、閉鎖された第二都市に酸素を供給するオーツに万が一が起こったら、 と想像したのだろう。老人の顔はツナギのように青くなる。

 悪くない線だ。しかしこのオーツを爆破しようと思ったら、それこそ爆撃機でも持ってこないと無理だろう。
 アリオは思わず苦笑しながら、ようやく結び目の解けた袋を開けて見せた。

「違うよお。僕はサンタクロースさ。ちょっとクリスマスには、まだ早いけど」

 え、と目を丸くする二人の前で、アリオはよっこらしょ、と袋から中身を引っ張り出す。

 燦々と降り注ぐ陽光に照らされて現れたのは、大きな熊の縫いぐるみだった。

 ぽかんとしている二人の目の前で、アリオは「メリー・クリスマス」と言いながら、それを下に蹴り落とした。熊はオーツの葉の中に隠れ、 それを抜けると、あっという間に遥か下界へ落下していった。それを満足げに眺めるアリオの頭を、後ろから近づいてきた老人が、 ゴン、と殴った。

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