袋は何も言わない。当然だ。その中身は、生きていないのだから。

 ちょっとそっとでは破れない、丈夫な帆布の袋。大きさは丁度、人が一人膝を抱えて入れるくらい。

 しかし、もし中身の彼が生きていれば、何故自分が袋に入れられこんな高い場所まで連れてこられたか知りたいだろう、 とアリオは想像する。だから、教えてやるのである。

「当時から、噂になっていたんだ。出火原因は何だったのか。何処から出火したにせよ、五百人の人間が一人も 逃げられなかったと言うのは、あまりに不自然ではないのか。あの大惨事は、人為的な物だったのではないか、って。 でも結局、焼け跡を捜査した警察は、全て施設の不始末のせいだったと発表した。そんなの、誰が信じる?  奴らがよっぽどのへっぽこだったんでなきゃ、意図的に隠蔽したのさ。犯人を。 お上の言うことは全て鵜呑みにするお幸せな奴ら以外は、皆、そう疑ったはずだ。けど誰も、何も言わなかった。 何も言わないまま、事件は風化して、人々から忘れられてしまった」

 さて、そろそろお前に外の景色を見せてやろう、とアリオは袋に手をかけた。

 しかし、自らが滅茶苦茶に結んだ結び目に悪戦苦闘していると、不意に、女の声が聞こえた。

「……あなた、そこで何してるの?」

 顔を上げると、オーツの葉に隠れるようにして、女が立っていた。

 背の高い、モデル風の容姿にそぐわない青いツナギ姿で、頭にヘルメット、腰には命綱をつけている。 ツナギの胸に縫い取られているのは、『ワルハラ環境局』の文字だ。

--------------------------------------------------
[917]



/ / top
inserted by FC2 system