アリオはため息をつき、ペットボトルの炭酸水をまた、一口飲んだ。

「……とまあ、こういう経緯なのさ。僕はまだ五歳だったけど、よく覚えてる。何が何だかよく分からないうちに、 死体もないのにひい婆ちゃんは死んだ、ってことになって、葬式にものすごい数の弔問客が来た。僕はどこに居ればいいか 分からなくて、ぼんやり立ってた」

 でもそこで気づいたんだ、とアリオは呟いた。

「意外と皆、悲しんでないな、って。弔辞の合間に、皆口を揃えて言うことにゃ、『まあ百歳まで生きたから……』だよ。 他の被害者、特に施設に入居してた年寄りに対しても、そうさ。あそこに居たのは元官僚とか、取締役とか、そういう人ばっかりだったから、 『ざまあみろ』って、雰囲気すらあった。新聞やラジオには嘆きやお悔やみの声が溢れかえっていたけれど、実際の世間の声は、 反対だったんだよ」

 その気持ちはよく分かる。アリオだって、よく思う。

 ざまあみろ。ざまあみろ。己に相応しくない幸せを、さも当然のような顔をして、のうのうと味わっていた者たちよ。

 上辺の声に隠れ、アリオに見えないところで、いつも誰かが、そんな風に笑っている。

「彼らの声は当然だったと思うよ。だから僕は、彼らに復讐したいとは思ってない」

 アリオは笑って、袋を軽く叩いた。

「僕が復讐したい相手は、もっと単純に、ひい婆ちゃんを殺した犯人、あの森に火をつけた奴さ」

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