良かった。今日、このリボンを付けた姿を、タキオに見せることが出来て。
 この先、何度リボンを付ける機会があるか、分からないもの。

 一片の躊躇も無く、ロミは美しい黒のリボンを、髪の毛から解いた。丁寧に皺を伸ばし、ポシェットに入れた。 そして、苦虫を潰したような表情のタキオへ、腕まくりして振り返った。

「行こう!」

 タキオは口を真一文字に結び、ロミを睨んでいたが、その時間も長くはなかった。 やがて大きく息を吐くと、乱暴に頭を掻きながら、タキオは言った。

「ルツにも、レインが無事だってことを教えてやらないと。それに、こいつの世話を頼まにゃならんだろ」

 タキオと同時に、ロミはイオキを見た。

 イオキは、今にも倒れそうな様子で立ち、指の骨が折れそうな勢いでマントの前を握り締めていた。 しかし、二人の視線を受けると、黙って頷いた。

 その表情が何を意味するか、深く考える余裕は、ロミにはなかった。ただ、イオキと離れると決まった瞬間、 心の隅で、ほっと息を吐く音を、確かに聞いた。

 だって、イオキまで危険な目に逢わせるわけにはいかない。それに……

 それに、この子には、関係ない。

 ロミは拳を握り締めた。願いは聞き届けられた。レインと再会出来る。彼女が思い描くその場面に、 イオキはいなかった。

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