立ちすくむレインの背中を後ろから押し、少女は無理矢理、彼を先へ進ませた。廊下の片側に並んだ扉の一つが開き、 そこから室内の光と、叫び声が漏れてきていた。押し合いへしあいしながらにじり寄っていくと、不意に光が遮られた。

 部屋の中から、戸口を塞ぐようにして現れたのは、身の丈二メートル以上はあろうかと言う、大男だった。
 タキオも大きかったが、この男とは比べ物にならない。鍛え上げられた小山のような肩の上に、 残忍さ漂う顔。レインの頭を一握りで潰せそうなほど大きな手は、真っ赤だ。

「おっ。そいつが例の餓鬼か」

 返り血で染まった軍服の上着を脱ぎ、それをタオル代わりに両手を拭きながら、男は言った。 曲げた十本の指から、鮮血で真っ赤になった巨大な鉤爪が、猫のように飛び出す。大きな口から異様に長い舌を出し、 焦点の合っていない瞳で、男は下品に笑った。

「餓鬼、気をつけな。長官はご機嫌斜めだぜ。あいつら、揃いも揃ってなかなか強情でよ。ま、俺としちゃ、それくらい骨がある方が、 色々楽しめるってもんだが」

「やり過ぎだ、馬鹿」

 と、後ろから男のふくらはぎを蹴って、白衣を着たマヤが現れた。そのまま足で男を横にどかしながら、マヤは言った。

「言っただろう。あの女以外は重傷なんだから、手加減しろと。 全く、この男、このまま死ぬかも分からないぞ」

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