抵抗しようと思えば、もっと激しく出来ただろう。足の鎖を引き千切り、刃を片手で受け止めた力を以ってすれば、
いかに衰弱していたとは言え、ユーリの手を振り解き、逆にその首を食い千切るくらい、わけもなかっただろう。 しかしイオキの抵抗は、まるで、両手の中で柔毛を震わす子兎のように、弱々しかった。 声もなく踏みにじられる野草のように、儚かった。 『お前のせいだ!』 弱々しく身を捩るイオキに、ユーリは叫んだ。 『人喰鬼? ふざけるな! お前さえいなきゃ、俺は、こんな……!』 己の両手の中で、緑の瞳が、大きく見開かれる。 その中にユーリは、絶望を見る。 理由も分からず罵倒される、混乱。存在自体を憎まれる、悲惨。 全ての悲劇と悪の根源である、と言う烙印を押される、瞬間を。 グールが人間を喰らうのは、そうしなければ生きていけないからで、仕方のないことだ。 同様に、人間がグールを憎み、殺すのも、非難される所以のない、当然の正当防衛である。 世の摂理は、見えない法律はそう定めていて、皆がそれに支配されている。 イオキを攫い、ザネリに売ろうとしたのは、俺だ。全て自業自得で、イオキはむしろ、被害者だ。 そう囁く理性も悔恨も、完璧で強大な摂理の前では、無力だ。 -------------------------------------------------- |