すると、それまで黙っていたトマが、ボソッと呟いた。 「アンダー・トレインの仙堂薬店」 キリエは立ち上がった。 「行きましょう」 テクラが慌てて言う。 「行きましょう、って…… 駄目ですよ! アンダー・トレインはさっき言った、犯罪者たちの巣窟なんです。一般人には危険過ぎます!」 「私は一般人じゃありません」 「で、でも……!」 ガチャ、と拳銃の劇鉄が上がる音がした。 すぐには状況が理解出来なかったテクラは、やがて、小型拳銃の銃口が、己に向けられていることに気づく。 まっすぐテクラに拳銃を向けて、キリエは言った。 「さっさと連れて行きなさい」 呆気に取られたまま、テクラは首だけトマの方へ向ける。 トマは、肩をすくめて立ち上がった。 「で、でも……」 拳銃をエプロンのポケットにしまい、トマについていこうとするキリエの背中に向かって、テクラは呟いた。 「あんみつ、まだほとんど残ってるのに……」 キリエはくるりと振り向いて、テクラを見た。 そして、思いがけず、にっこりと笑った。 「私、甘いもの嫌いなので」 -------------------------------------------------- |