あのね、とアイが言いかけた。と、乱暴な音がした。ニルノは思わず息を呑んだ。

 数秒後、全く知らぬ――
 否、何処かで聞いたことがあるような?――
 声が、受話器から流れてきた。

「ねえ、これ、どういうこと? 何でどのチャンネル回しても、同じ映像が流れてるのさ。 エイト・フィールドが乗っ取ったとか言ってるけど、冗談だよね?」

 ニルノに銃を突き付けている若者と同じくらいの年齢の声だ。
 誰だ、と尋ねかけるニルノを無視して、相手は一方的に捲し立ててきた。

「困ったな。今、ここにクレーター・テレビのカメラがいるんだけどさ。 このカメラの映像だけでも繋ぐよう、あんた、そこにいるマフィアどもに言ってくれない?  こんな意味不明な映像より、もっと面白い映像を流すからって」

「面白い映像?」

「そう。クレーター・ルームの住人全員が死ぬところ」

 一瞬、言われたことの意味が分からなかった。ニルノの思考回路が止まる。 ようやく言葉の意味を理解すると、思考回路は更に真っ白になった。

「な? 何を言って……」

「信じられない? じゃあ信じてもらえるよう言うけど、『白鬚殿下の秘密の毒薬』って言うのを使うんだ。 この毒は空気より重い気体だから、オーツのてっぺんから撒けば、クレーター・ルームの住人全員の肺に入る。 その為にクレーターを封鎖したし、予行演習はばっちり。 演習としてオーツに上ったときは、このお姉さんに見つかって怒られたけど、今回は大丈夫。怒る前に死ぬから」

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