ニルノは舌を縺れさせながら、電話の向こうから告げられた次第を、伝えた。 しかし若者は、「そんなの、封鎖騒ぎに乗じた悪戯だろう」と全く相手にしなかった。

「この電話を取り次いでやっただけでも感謝して欲しいね。相手が彼のサムサゲ・ニルノだって言うから、こんな状況だけど特別に取り次いでやったんだ。 さっき見せた生中継、俺たちが今何をしているか、あんた、分かるだろ」

 若者は風船ガムを膨らませた。

「とある男がグールの女王を殺す、歴史的な瞬間を、全世界の人間に見せているんだよ。 この中継は、謂わばグール殲滅計画の大きな要。俺たちの本業には似合わない、大義ある行いだ。 サムサゲ・ニルノともあろう者が、それを邪魔する気か?」

 女王と戦うタキオの姿が、ニルノの脳裏を過ぎった。

 彼と共に過ごした時間、彼と共に目指した場所。 途中で分かたれてしまったが、いつまでも同じだと信じていた、望む未来。

 勿論今だって、望む物は同じだ。けれど―ー


 だからと言って、こんなやり方で、良いのか? その為には、何物をも犠牲にして構わないのか?


 嗚呼、二人で語り合ったあの頃は、敵はグールのみであった。彼らを殲滅する為に、自分自身の命すら犠牲する覚悟だった。
 それ以外の敵がいるなど、考えもしなかった。それ以上の覚悟がいる犠牲など、想像もしなかった。

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