ルツは絶望して、電話を切った。マリサを見下ろすと、唇がどんどん青くなっている。 「大丈夫よ、頑張って。すぐに助けてあげるからね」 懸命に話しかけるが、マリサはぐったりして返事をしない。体が熱いことに気づき、誰もいない売り場へ戻って、 落ちていた水のペットボトルを開けた。マリサの口許に寄せたが、透明な液体は虚しく娘の顎を流れていった。 涙が、出てきた。 何が出来るか考えなくては、と思っても、何も浮かばない。何も出来ない我が身を呪うことしか出来ない。 必死に涙を堪えながら、お願い、と亡き夫に呼びかけた。マリサを助けて。私に力を貸して。 と、その時、誰かがルツの前に屈んだ。 ルツは顔を上げた。 顔を真っ赤にし、髪を振り乱したレインが、肩で息をしながらそこにいた。 ルツは一瞬、信じられない気持ちで、レインを見つめた。が、彼がマリサを見つめているのに気がつくと、説明した。 「救急車を呼んでも、繋がらないの。ここから二十分程行けば病院があるんだけど、足を挫いてしまって、動けない……」 みっともなく涙が溢れてくる。 レインはそんなルツをじっと見ていたが、やおら右手を伸ばし、マリサを抱きしめるルツの肩に触れた。ルツははっとした。 いつの間にか彼女よりずっと大きくなっていた手が、優しく、だが力強く、彼女の肩をさすった。 そして頷くと立ち上がり、踵を返した。 助けを呼びに行く為に。 -------------------------------------------------- |