「……どういうこと?」

「分かりません。とにかく、今朝のワルハラ日報の一面に、農場から脱走した家畜の記事が載っているんです」

 電話の向こうの、ワルハラ政府長官は半分パニック状態で言った。

「早くも世論からは、農場に対する批判の声が上がり始めていて…… この件に関して、記者たちが押し寄せてきています。 一体、何とコメントしたら……」

「落ち着いて」

ミトは冷静な声で言った。

「今、秘書に書き取らせるから、記事の全文を読んでくれ。コジマ、口述筆記の用意を」

「どうぞ」

 すでにコジマは、紙とペンを取り出し、準備を整えていた。ミトは電話のスピーカーボタンを押した。

「『人間農場の功罪〜とある少年の脱走と、彼が使骸を付けるまで〜』」

 滑舌が悪い政府長官の朗読を、コジマは正確に聞き取り、驚くべき速さで書き取っていく。

 その様子を見ながら、ミトは、彼女が秘書室に残ってくれて本当に良かった、としみじみ思った。
 「辞めます」と言った彼女が何故宣言を撤回したのか――
 本人は「考え直した」と説明したが、ミトは腑に落ちない――
 理由は不明だが、この際、理由などどうでもいい。 コジマの素晴らしいサポートの数々がなければ、ミトはここまでユーラクの統治をスムーズに行えなかっただろう。

--------------------------------------------------
[309]



/ / top
inserted by FC2 system