* 「……どういうこと?」 「分かりません。とにかく、今朝のワルハラ日報の一面に、農場から脱走した家畜の記事が載っているんです」 電話の向こうの、ワルハラ政府長官は半分パニック状態で言った。 「早くも世論からは、農場に対する批判の声が上がり始めていて…… この件に関して、記者たちが押し寄せてきています。 一体、何とコメントしたら……」 「落ち着いて」 ミトは冷静な声で言った。 「今、秘書に書き取らせるから、記事の全文を読んでくれ。コジマ、口述筆記の用意を」 「どうぞ」 すでにコジマは、紙とペンを取り出し、準備を整えていた。ミトは電話のスピーカーボタンを押した。 「『人間農場の功罪〜とある少年の脱走と、彼が使骸を付けるまで〜』」 滑舌が悪い政府長官の朗読を、コジマは正確に聞き取り、驚くべき速さで書き取っていく。 その様子を見ながら、ミトは、彼女が秘書室に残ってくれて本当に良かった、としみじみ思った。 「辞めます」と言った彼女が何故宣言を撤回したのか―― 本人は「考え直した」と説明したが、ミトは腑に落ちない―― 理由は不明だが、この際、理由などどうでもいい。 コジマの素晴らしいサポートの数々がなければ、ミトはここまでユーラクの統治をスムーズに行えなかっただろう。 -------------------------------------------------- |