ユーラク秘密警察長官トーベは、ふっと薄い唇を歪めるように答えた。

「我々の任務は、名の通り、常に秘密裏に行われますからな。外部から見たら、不審に見えるでしょう」

「しかし今の君たちは、何の捜査権限も持たないはずだ」

「左様」

 トーベは挑むような表情で、ミトを見た。

「我々は本来の捜査権限を全て奪われ、貴方にクビを切られるのを待っている」

コジマが、咎めるような目つきで、顔を上げる。
 ミトはしばらく黙って、トーベの瞳を見つめ返していたが、やがて静かに言った。

「秘密警察の捜査権限が、政治に不満を持つ者たちを片端から捕らえ、問答無用に死刑にするという所にあるなら、僕に秘密警察は要らない。 そんなやり方ではますます民衆は反発するだけだし、そもそも民意に沿った政治を行っていれば、民衆を武力で圧する必要などないのだ。 君が別のやり方で僕に貢献しないと言うのならば、先日も通告した通り、秘密警察は解体する」

 トーベはミトから視線を逸らすと、執務室の窓から差し込む光を見つめ、黙った。
 その目蓋が小鳥の心臓のようにぴくぴくと動くのを、ミトの目はじっと見ていた。

 やがて、トーベがにやりと歯をむき出すと、形の良い歯並びが、白く光った。

「我々秘密警察の役目とは、領主の為に、軍や警察では都合の悪い任務を遂行することです。 無論、現在のユーラクの領主が貴方である以上、貴方の命令に従いますとも。如何なる御命令でもお申し付けください」

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