ルツは屋上に駆け上がってくるなり、子供たちの間に割って入り、しゃがんで二人の頭を押さえつけた。

「隠れて!」

 目を白黒させる二人を押さえたまま、ルツはそろそろと手すりから頭を出し、下の様子を確認する。

「何これ? スパイごっこ?」

わくわくしたように言うマリサの横で、ルツは憤怒の形相で呟いた。

「来たわね……」

 尻もちをついた体勢から体を起こし、レインは左手についた土を払った。

 鈍い銀色の特殊な合皮をかぶった左手は、右手に比べると幾分華奢で、骨ばっている。 着けて一週間も経たないので、まだまだ慣れないが、今やレインの左手は、これ以外ではあり得ない。
 それは不思議な感触だった。
 失われた体の一部が戻って勿論嬉しいのだが、どこか「慣れていないから」だけでは説明出来ない、違和感がある。

 と、ピンポン、と玄関のチャイムが鳴った。

「出ないの?」

尋ねるマリサに、ルツは無言で首を振る。

 レインはルツの足元に新聞が落ちているのに気がついて、不器用に左手でそれを拾った。すっかりぐしゃぐしゃになったそれの、 表の面を見るなり、レインは目を丸くした。

 そこにいたのは、驚いた表情でこちらを見る、自分だった。

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