まるで呪詛の呟きか何かのように、老人の言葉は、薄暗い地下工房に反響する。

 言葉の意味は分からない。だがレインは、常に自分の周りを取り巻いている、あの、人間農場に降っていた、饐えた匂いのする霧雨のようなもの、 それが老人の唇から出て、雨脚がいっそう強くなったのを感じた。

 落ち着きかけていたレインの胸が、またざわざわと鳴り出す。
 先とは違う、極彩色の渦に引っ張られる力をはっきりと感じるのではなく、 何か実体のない、暗くて冷たいものが、ゆっくりと這い上がってくるような感覚。

 それを、「父さん」と言う、ルツのきっぱりした声が遮った。

「レインは人間よ。私たち家族の一員よ」

 レインは瞬いて、ルツを見た。

 老人は黙っていた。

 ルツは微笑み、順繰りに家族を見ていった。
 父、マリサ、そしてレインへ。

「私は、家族を嫌な目に遭わせたりなんか、しません」

 可憐だが強く咲き誇る、菫の花のような瞳が、レインを見つめて、笑った。

 レインはそっと鉄色の左手を触った。
 自身の体温よりずっと冷たいはずのそれは、何故かとても温かく感じた。

 ひっそりと安堵の息を吐くレインの隣で、マリサが嬉しそうに言った。

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