こうして、女たちに囲まれて汚れ物を洗っていると、自然と、故郷の母親のことを思い出さずにはいられなかった。 母親は元気にしているだろうか。 家ではろくに手伝いもしなかった息子が、こうして洗濯機も使わず洗濯しているのを見たら、驚くだろうか。 父親は。祖父母は。 ――俺のことを、心配しているだろうか。 女たちの笑い声が弾ける。 皿をこする手に、知らず知らず力がこもる。 俺のことを、探してくれているだろうか。 誰もまさか、俺がこんな遠い異国の地にいるとは、思いもしないだろう。異国の地で、こんな、奴隷のように扱われているとは。 強い風が吹き、ユーリは顔を上げた。 砂が目に入り、顔をしかめるが、泡だらけの手でこするわけにもいかない。 涙で滲む視界の中で、女たちの美しいスカーフが翻り、辺りのモザイクがキラキラと輝く。 イジドールの町は神の都のように美しく、人々は優しい。 それに比べると、故郷の町は何と退屈だったことだろう。 けれど今、誰かが家路を示してくれるなら、今後一生、故郷から出れずとも構わない。 欲しいのは、砂混じりの乾いた風ではなく、木々を渡る爽やかな風だ。潮の香りではなく、草木の香りだ。 モザイクに覆われた神秘の都ではなく、豊かな森に覆われたワルハラの地だ。 懐郷。 失望。 後悔。 家族と共に食卓を囲み、級友たちと共に駆ける、そんな当たり前の日常から、どうして俺は、脱け出したいなんて思ったのだろう。 -------------------------------------------------- |