「白くてとっても綺麗。夜に咲く。毒があるところとか、全部」

キリエはふっ、と鼻を鳴らした。

 イオキは不意に、足首に痒みを覚え、キリエから手を離した。

「どうしました?」

「痒い」

屈んで見ると、サンダルを履いた足首に、赤い虫刺されの跡がある。掻こうとすると、キリエが止めた。

「掻いては駄目です。屋敷に戻ったら、クリームを塗ってあげますから」

「あの、良い香りがするクリーム?」

「ええ」

「でも、痒くて歩けないよ」

 イオキが駄々をこねると、キリエはイオキを抱き上げた。イオキの鼻腔を、無機質な香水の香りがくすぐる。 イオキは体をくねらせ、キリエの柔らかい胸に腕を押しつけた。

「暴れないでください」

キリエはぴしゃりと言った。

「早く帰らないと、ご主人様が心配しますよ」

イオキは笑いながら、キリエの首に手を回した。キリエのほっそりした手が、ほんの少しだけ強く、イオキの体を抱きしめた。

 イオキはキリエの肩越しに、夕顔の花を見た。夜に咲く大輪の白い花に、彼女の温かく、柔らかく、良い香りのする肉体が重なった。

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