「う〜ん」

唾を飛ばして喚くロビタに、ザネリは真剣でもない様子で唸った。

「ワルハラ軍の諜報部が? まあ確かに、国外活動は彼らの得意分野ではあるけどねえ……  あんな徹底的に足跡を消しておいたのに、こんな早く、我々の居場所を突き止められるかな」

「けど、あのテクラとかいうやつは、ザネリさんのしりあいなんだろ? ほかのやつより、勘がはたらくかもしれない」

 喚くロビタを無視し、ザネリはイオキが起きているのに気がついて、こちらへやってきた。
 イオキは瞬きせず、顔が痩せたせいでより大きくなった目を見開いて、近づいてくるザネリを見つめた。 ザネリはベッドの傍らに膝をつくと、尋ねた。

「大丈夫か」

ザネリの自分を見る目つきが、どことなく今までと違って見える。イオキはザネリを見つめたまま、返事をしなかった。 ザネリはイオキの足首を繋いでいる鎖を、確認するようにジャラリと鳴らした。

 彼の背後から、ロビタが、悪鬼のごとき憎悪の目でこちらをにらんでくる。
 それをユーリが、何もかも諦めたような、暗い瞳で眺めている。

 イオキは顔を背け、微かに体をよじった。 拍子に、長いこと切っていない爪が、体に纏っている緋色の布の、ビーズ刺繍に引っかかった。 それを見たザネリは、ロビタに命じた。

「食事が済んだら、こいつの爪を切ってやれ」

 ロビタが渋々頷くと、ザネリは部屋の中央へ戻った。ユーリが食事の皿を持って、皆に配り始めた。

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