「七十七市まで? それなら、そこまで乗せていきますよ」

 ルツの告げた行き先を聞くと、アイは明るく言った。

「トンネルは繋がってるし。列車なんかに乗ったら、それこそ居合わせた野次馬たちから逃げられなくなっちゃうでしょ」

「でもアイ、七十七市まで行ったら、車でも半日以上はかかるんじゃ……」

「別にいいわよ。私、明日まで休みだし」

 でも、と後部座席からルツも躊躇う様子を見せると、アイは真面目な表情になり、バックミラー越しにルツと目を合わせた。

「どうか送らせてください。余計なお世話かもしれないし、こんなことじゃ何の埋め合わせにもならないだろうけど、 今回の件で、私もあなたに謝りたいの。彼の恋人として」

ルツの膝の上で、マリサが弾んだ声を上げる。

「やっぱり、恋人なんだ」

「ええ。本当に、ごめんなさい。こんなことに、なってしまって」

 レインはバックミラーに映るアイの目を見つめた。鏡に映る彼女の瞳は、強く揺るぎなかった。
 ルツは微笑んだ。

「あなた、素敵な恋人をお持ちね」

ニルノはアイの隣から、いやあ、とバツが悪いような、照れているような声を上げる。ふっ、とアイは口元をほころばせると、 さらに深くアクセルを踏んだ。

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