ニルノは思わず足を止め、呆気に取られたように上方を見上げた。
 その後ろで、レインが耳を塞ぎ、しゃがみこんだ。

 やがて登山用リュックにボストンバッグ二つを抱えて戻ってきたルツは、目の前の光景と喧騒に、一瞬、足を止めたが、 すぐに、耳を塞いでうずくまっているレインの肩に手を置いた。そして、「行きましょう」とニルノに向かって低い声で言った。 ニルノは青い顔で頷いた。

 五人が乗り込むと、ボートは大きく揺れた。雨のように喧騒が降り注ぐ中、ボートは逃げるようにひっそりと、対岸に向かって進み出した。

 少しずつ、喧騒は遠ざかっていく。ボートはゆらゆらと揺れ、それに合わせて川面がギラギラと輝く。オールを握るニルノの額に、 玉のような汗が浮かぶ。ルツは両腕にしっかり子供たちを抱え、厳しい表情で、じっと前を見つめていた。

 ボートは川を斜めに横切るようにして遡ると、ほんの十分程で、対岸の護岸壁に着いた。 対岸の護岸壁も、ルツの家側と同じように、民家からずっと低い位置にあった。 ボートが停まった場所には、下水の排水口に似た、けれどずっと大きな穴が開いていた。

「これはクレーター・ルームにドームがなかった頃の名残で」

と、ボートを穴の横の梯子に繋ぎながら、ニルノは説明した。

「川が増水した時に排水する為のものです。下水の排水口とは、真逆の働きをする穴と言うことですね。当然、今は使われていません」

 穴を覗き込み、ルツは尋ねた。

「これ、どこへ続いてるの?」

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