「市外のいくつかの川に注ぎ込みながら、最終的には干支潤(エトウル)湖へ排出されます」

「へえ、アンブルとの境まで行けるのね。それじゃあ、七十七市まで行ける?」

「七十七市? 行けないことはないですけど……」

 ニルノは梯子を使って穴に入ると、腰のポシェットから地図を取り出した。「環境局に勤めてる知り合いから借りたんです」 と説明すると、地図を広げ、ふむふむと呟く。

「このパイプも七十市まで、続いてることは続いてますけど…… そこまで歩こうと思ったら、一日以上かかりますね。 とりあえずこのパイプを使ってクレーター・ルームを出て、そこから先は列車を使うのがいいと思いますよ」

穴へ荷物を投げ込みながら、ルツは、そうねえ…… と思案顔になった。その間にレインたちは梯子を使って穴の中へ入り、 最後にルツが上った。

 穴は、大人一人が立って歩けるほど十分高く、横幅もあった。そこから、奥へずっとトンネルが続いていた。 内側は金属で覆われていたが、赤錆だらけだった。
 ルツははしげしげと周囲の赤い金属を見回し、そして、乾いた空気を吸い込んだ。 空気はこれ以上ないくらい無味で、赤錆の匂いがした。

 喧騒はもはや遠い。穴の中は涼しく、川面は夏の光の中で午睡んでいるようだった。ひとまずは安全な場所へ来れた、とルツは思った。
 そう、ひとまずは。けれど、まだまだこれからだ。


 と、その時、悲鳴が上がった。


 マリサがしがみき、ルツは驚いて振り向いた。
 レインが口を大きく開け、絶叫していた。その瞳は、己の左手を見ていた。

 真っ赤に染まった、左手を。

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