「女王が、イオキを憎んでいる?」

鸚鵡返しにモギは繰り返した。

「それは…… それは、どういうこと? 何故女王がイオキを?」

 ミトは黙って彼女の目を見つめた。モギは、いよいよ混乱する己を何とか制そうとするように、拳を固く握りしめた。

「待って、わけが分からない。私が女王に嫌われている理由なら分かるわ。私は女王に種を与えることが出来ない『欠陥品』だもの。 それにしたって、憎まれているわけじゃない。ただ、存在を無視されているだけのこと。憎まれるだなんて…… あの子、 何か、女王の不興を買うようなことをしたの?」

 ミトは首を振った。

 モギはしばらくの間、息を止めるようにして、ミトを見つめていた。やがて、ゆっくりと息を吐き出すと、モギは毅然と頭を上げた。

「分かりました。このことは誰にも言いません。グールにも、人間にも。でも、私に何か出来ることは? 私の助けを借りたいから、 話してくださったのでしょう?」

 いいや、と、そこでミトは彼女の肩から手を外し、穏やかな瞳で微笑んだ。

「こうして苦痛を分かち合ってくれるだけで、十分だ」

 モギは深い紫色の瞳で、じっとミトを見つめた。
 やがてその手がそっと、透けるほど薄い紙の一片を包むように、ミトの手に重なった。

「私も、あの子のことを考えると、不安で胸が張り裂けそう。でもきっと大丈夫よ。イオキは無傷で、お兄様の元に帰ってくるわ」

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