彼女の手は温かく、紫水晶の洞窟のような目は、この上なく深い愛情と優しさと、苦痛に満ちていた。

 ミトは知らず知らずの内に、薔薇の花束を抱いたもう片方の手に、力を込めていた。薔薇の棘が、ミトの指を刺した。 血を薔薇に吸わせながら、ありがとう、とミトは呟いた。

 と、その時だ。

 ヨミネが飛び出していった扉が、賑やかな音を立てて開いた。ミトとモギは振り向いた。

 時が止まったかのような白亜のホール、そこに佇む、やはり時が止まったような美しい一組の男女。 そんな、一枚の絵のような空気を破って、ホールに入ってきたのは、二人の若者だった。

「ほらほらヒューゴ、もうここまで来たんだから、観念して!」

「お前どこ引っ張ってんだよ! 離せ」

 呆れ返った表情でモギは、二人の闖入者を見やる。

「お久しぶりです!」

 と先に声を上げたのは、高校生くらいの少年だった。

「コン?」

と自分の前にやってくる少年を見て、ミトは思わず呟いた。

 明るい空色の瞳、同じ色の短い髪は記憶と変わらないが、 他はどうしたことだろう。並んだ背は記憶にあるよりずっと高く、差し出された手の大きさも、もうほとんど自分と変わらない。 顔立ちはまだ幼さが残っているが、ミトに似て、いかにも利発そうだ。

「なに、驚いた顔してるんです? 息子の顔、忘れちゃったんですか? お父さん」

 ミトの前に立ち、ふふ、とコンは笑った。

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