「俺はなあ、そもそもこんなとこ、来るつもりなんかなかったんだよ! それなのにいきなりコンの奴がやってきて、 無理矢理引き摺り出しやがったんだから」

「喪服はあるかって聞いたら、案の定ないって言うんで、僕のお下がりの学ラン着せときました」

お似合いですよ、とヒューゴに向かってふざけるコンは、白いズボンにブレザー、金色の鈴がついた黒い紐のリボンという格好。 ヒューゴの方は、迷彩柄のワークパンツの上に、白い学ランを羽織っている。

 わあわあ騒ぐ二人を、特にコンを見つめながら、ミトはほんの僅か、目を細めた。

 こうして改めて見ると、立ち居振る舞いはともかく、 顔立ちなどはやはり自分に似ている。当然だ。コンもまた、イオキと同じ、己の血を分けた子供なのだから。

 しかし何故か、コンを見ていても、イオキに対するような愛情が湧いてこないことを、ミトは認めないわけにいかなかった。
 成長していく姿は微笑ましいし、感慨深くもある。しかし、イオキに対して感じる、過剰なまでに守りたいと思う気持ち、 彼の幸せの為なら何を犠牲にしても構わないと思う気持ち、そういったものが、コンに対しては一切湧いてこない。それが愛情と呼べるなら、むしろ モギの方に愛情を感じると言っても、良いくらいだ。

 不意にコンが、ミトの視線に気がついたように顔を上げ、こちらを見た。

 ミトと目が合うと、コンは眼鏡の奥で、ふっと微笑んだ。ただ無邪気に笑ったようでもあり、何か含むところがあるようにも、見えた。 ミトは黙って微笑み返した。

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