* 青地に白い馬を描いた旗が、砂埃の中で翻っていた。 カットソーの上にキャミソールワンピースを着たコジマは、頭に巻いたクリーム色のスカーフを押さえ、旗を見上げた。 よく見ると、竿の根元に、白地に金の太陽を描いた旗の切れ端が残っていた。 「こんにちは。良い生地が入ってますよ」 コジマは顔を前に戻した。色とりどりの布が所狭しと垂れ下がるテントの奥から、生地屋の主人が出てくるところだった。 片足を引きずりながら出てきた若い女は、手近な布を引っ張った。 「領主様が輸入規制を緩めてくれたお陰で、異国の珍しい品が色々入ってくるようになったの。ほら、これなんか見て。 エイゴン産なんだけど、綺麗でしょう。あなたにぴったり」 女が広げたのは、砂粒のような紅茶色のビーズを何万粒と連ねて織られた、見事なレース状の生地だった。コジマは困ったように微笑んだ。 「私には派手過ぎるわ」 「そうかしら…… 普段使い用の、無地の物も沢山あるわよ。あなたのそれ、素敵だけど、破れてるから買い換えたら?」 コジマはスカーフを引っ張った。女の言う通り、何かに引っかかったのか、スカーフの裾に切れ目が入っていた。 コジマは切れ目を隠すように結び直し、首を振った。 「ありがとう。けど、これは気に入ってるから」 そう、と女が呟くのと同時に、奥で赤ん坊の泣き声がした。ちょっと待ってね、と言うと女は奥へ行き、 やがて赤ん坊を抱えて戻ってきた。 大変ね、とコジマが言うと、女は笑った。 「そうでもないわ。今の領主様になってから、母子家庭への援助金が出るようになったから。それに、この足の治療も、 保険が利くようになったの」 -------------------------------------------------- |