車を降りながら、ルツはニルノとアイを紹介した。大人たちがあれやこれやと話す間、レインは老人を揺さ振り起こして 彼が車を降りるのを手伝い、自分もリュックを背負って、ぬかるんだ地面に降りた。

 車の陰に立ち、レインは辺りを見回した。

 広大な牧場は、嫌でも人間農場のことを思い出さずにはいられなかった。それでも不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。

 ここには鉄条網も無いし、実験施設も無い。低い柵に囲われただけの広大な牧草地を見ていると、隠れる場所を探すのではなく、 思いっきり走り回り、転げ回りたい気持ちに駆られる。

 それに何より、臭いが全く違う。人間農場の臭いは、錆びた金属と、血と、奇妙な薬品の臭いだったが、ここの臭いは、 土と、獣と、獣の糞の臭いだ。それに、家から漂ってくる、パンとソーセージが焼ける匂い。 レインは思い切り息を吸い込んだ。

 と、誰かがこちらを見ているのに気がついた。

 それはレインと同じくらいの年齢の少年だった。
 彼は、家の隣に建つ古い石造りの家畜小屋から、数頭の犬に囲まれて、じっとこちらの様子を窺っていた。
 レインが彼を見つめていると、目が合った。すると少年は、小屋の中へ消えた。

「この子がレイン?」

 と、エッダの大きな体が、ぬうとレインの前に現れた。レインはぎょっとして、思わず後ずさった。彼の肩を叩こうとしたエッダは、 ん? と言うような顔をしたが、すぐに合点したように笑った。

「大変だったね。とりあえず、家に入りな」

 レインは困ったような顔をして、とりあえず、ルツの元へ行った。

 ルツは、ニルノとアイと話していた。

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