「別に、独り占めしようなんて思っていないよ。あの子は僕の子なんだから、一緒にいて当然だろう?」 相手は答えず、じっとミトを睨みつけた。少年らしい、まっすぐな怒りに溢れた視線ではあったが、同時に、どこか 相手の顔色を窺う、内気な少女のような視線だった。ミトは「仕方のない子だ」というように微笑みを浮かべ、 相手の目を見つめ返した。 やがて、「ふん」と言う呟きと共に、先に視線を逸らしたのは、相手の方だった。薔薇の花束をミトに押し付けると、 相手は踵を返した。 「帰る。イオキがいないんじゃ、意味ないもの」 ミトが呼び止める間もなく、子供のように足音を鳴らして、相手はホールから出て行った。 それと入れ替わるようにして、別の入り口から、ホールへ誰かが入ってきた。 「お兄様」 「萌季(モギ)」 優雅な足取りでこちらに向かってくるのは、ミトと同じくらいの年齢の、 生きた人形のような美女だ。陶器のごとき白い肌に、牡丹色の唇。烏の濡れ羽色の髪を高く結い上げているが、 そのうなじから肩へのラインの、何と優雅で、美しいこと。顔立ちは凛としており、意志の強そうな眉と、アメジストのごとき紫の瞳を持っている。 歩いた傍から、触れた空気が高貴に香っていくようだ。 彼女はミトのすぐ近くまでやってくると、喜びを顔いっぱいに浮かべながら、蝶々のように腕を広げた。 「お久しぶりね。お会い出来て嬉しいわ」 「僕もだよ」 -------------------------------------------------- |