タキオがいなくなったリネン室は、急にガランとして見えた。
 ロミは急に、狼が潜む森に放り込まれた子羊のような、不安を覚えた。今更ながら、今にも扉を開けて、銃を構えたエイト・フィールドが 入ってくるような気がして、心臓がドキドキと鳴り出す。

 しかし、すぐに自分に言い聞かせる。こんなことでは駄目だ。今自分に出来ることを、やらねば。
 今自分に出来ること、それは、崩れたシーツの山を見れば明白だった。ロミは黙々と、崩れたシーツを片付け始めた。 シーツを完璧な正方形に畳むのは骨の折れる作業で、ロミはふと、元テロリストの孤独なクリーニング屋を思い出した。

 何とか最後の一枚を畳んで棚に戻すとと、ニルノがため息をついた。

「あいつは、色々と簡単に考えすぎだ」

ベルトを掛け直しながら、ロミは努めて平静に言った。

「タキオがいなくても、いざとなったら、私が守ってあげるよ」

 ニルノはあからさまな表情でこちらを見下ろした。そして、何も言わず、通路の奥に腰を下ろした。

 沸々と、ロミの胸の中に怒りが、マグマのように沸き上がってくる。簡単とは何だ。不安なのは、タキオだって同じだ。なのに、この人ときたら……

 火山口から噴き出たマグマは、次第に、泣きたい気持ちへ変わっていく。


 私、知ってるんだからね! あなたが、本当は……!


 ベルトに手をかけたまま唇を噛んだ時、リネン室の扉の開く音がした。

「あれ、電気が点いてる。誰かいるのかな?」

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