ロミは凍りついた。

 反射的に両手を強く握りしめた以外、呼吸も思考も、体の全てが停止する。感覚だけがやけにはっきり研ぎ澄まされ、 こちらに近づいてくる足音を、耳と皮膚で感じ取る。

「んん? 誰もいない……」

 若い男の声が、クスクスと笑う。

「けど、ひょっとして…… 誰か隠れてたりして〜」

 中央の通路を通り、足音はどんどんこちらに迫ってくる。心臓が爆発しそうだ。 ようやく思考回路が戻っても、どうする? どうする? ばかりが回る。咄嗟に、心の中でタキオを呼んだが、勿論、彼が現れるわけもない。

 足音が間近に迫り、ロミは金色の足に力を入れた。

「亜莉雄(アリオ)、何してる」

 第二の声がして、足音は止まった。今度は女の声だった。男の声が軽い金属を思わせるような響きを持っているのに対し、 こちらはややハスキーな、深みのある声だ。

「あ、織里座(オリザ)」

カツ、カツ、とヒールのある靴音がリネン室に入ってくる。しかしそれは、入り口のすぐ側で止まった。

「こんなところに、誰が隠れてると言うんだ。あまり部屋を荒らすな」

 一拍置いて、男の足音が遠ざかっていく。ロミはゆっくり息を吐き出した。

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