棚の入り口で必死にニルノの腕を引っ張るロミの耳に、聞き覚えのある男の声が飛び込んできた。

「やっぱり、隠れてたんだ」

 ロミは反射的に振り向いた。

 斜め前の棚の間から、一人の青年が、中央の通路へ出てくるところだった。

 大きな鼻に小さな目、赤みがかった茶色のマッシュルームヘア、小柄な体に纏った、ややくたびれた砂色の背広。 皮膚は黄色っぽく、遠目から見ても分かる程、ガサガサしている。

 年齢は二十歳くらいだろうが、非常に童顔で、よく見れば、愛嬌があると言えなくもない顔立ちだ。
 にも関わらず、青年にはどこか、見る人間を不安にさせる雰囲気があった。 ――一直線に切り揃えられた前髪の下から覗く、目のせいだろうか?  それは、サーチライトのように落ち着きなく動き回っていたが、同時に、何も見ていないようにも思えた。

 アリオだ、とロミは思った。

 あの、ハスキーな声の女にアリオと呼ばれていた青年。でも何故? 出ていったと思ったのに。

「出てったと思った?」

 ロミの額に冷や汗が伝う。
 アリオは笑った。薄い唇の間から、ひどい歯並びが見えた。

「残念でした〜。出てったフリをしただけです」

 こんな風に、と言うように、アリオは足をどたどたと鳴らし、次いで全くの無音で、こちらに向かって歩き出した。

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