乱暴に、受話器を取り上げる音がした。

 『あ〜……』とタキオは呟くと、頭をぽりぽり掻いた。

『こーゆー言い方はしたくねーが、お前があの記事書けたのは、ロミのおかげだろ。その借りを返してくれても、いいんじゃねーか』

 長いこと、ニルノはリノリウムの床を見つめ、黙っていた。

 やがてニルノは、大きくため息をついた。

「――分かった。何とか上に掛け合ってみるよ。二週間でいいのかい?」

『ああ』

 明日、例のカレー屋で会おう、とタキオは言った。分かった、とニルノは頷くと、電話を切った。

 電話を抱えて立ち上がると、デスク長が、煙草の煙越しに、じっとこちらを睨んでいた。

「……え〜っと」

ニルノはにこっと笑った。

「実家から、身内が亡くなったと連絡がありまして…… 郷里に帰る時間も含めて、二週間ほど休みをもらいたいんですが……」

 雄牛のように広げた鼻の穴から、デスク長は、煙草の煙を朦々と吐き出した。同じ生活部の仲間たちから、「えーっ」と非難の声が上がる。

 それから一時間ほど、ニルノは肩身を狭くして、延々と弁解の言葉を並び立てる羽目になった。

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