「でも、実物がないのに、カタログの写真だけで、どういう商品か分かるものなの?」

 ロミの言う通り、確かに壇上にいるのは進行役だけで、肝心の商品はどこにもない。そのせいか、進行役は、殺風景な部屋で、 まるで大学の講義をしているかのようにも見える。

「競りの前に展示の時間があって、そこで実物を見ることが出来るんだよ。その方がじっくり実物を見られるし、競りもスムーズに 進むしね」

「えっ、じゃあここでは実物は見られないの」

ロミはがっかりした。オリザが競り落としたがっている『ネリダ博士の研究レポート』とやらがどんな物なのか、期待していたのに。

 アリオは黙って笑った。世界的な文豪の直筆原稿、七色の毛並みの馬、とオークションは続いていくのを見ながら、やがて、好奇心を抑えきれなくなって、 ロミは尋ねた。

「……ネリダ博士の研究レポートって、何なの?」

アリオは少しの間、黙って自分の唇を引っ張っていた。

「……ネリダ博士は、『東方三賢人』の設立メンバーの一人でね、天才的な脳学者だった。彼は『東方三賢人』でグールに関する実験と研究を 続け、その成果を書き記した」

ロミは目を丸くする。

「但し、その中身は全て、彼独自の暗号で記されている。暗号の解読表は、『東方三賢人』にしか伝わっていない。だから、 他人が競り落としたって意味が無い物なんだけど……」

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