二、三秒、雑音がするばかりだった。
 地獄の釜から沸き上がってくるような、恐ろしい声がした。

『貴様、誰だ』

タキオはまるで怯えた様子を見せず、答えた。

『誰でもいいだろ。パントを見つけたけりゃ、パーティー会場に行きな』

 銃を突きつけたロミも、突きつけられた給仕も、息を呑んで、事の成り行きを見守る。

 タキオはすぐに無線のスイッチを切ると、耳を澄ませ、隣室と外の様子を窺った。
 フロアを警戒していた黒服たちが、一斉にパーティー会場へ走る音が聞こえる。
 黒服たちが闖入しても、パーティー会場はそれほど動揺した様子ではなかったが、やがて時間が経ち、さらに会場内へ乱入する足音 が増えると、ざわめき始めた。 ジュアンが到着したのだろう、と判断したタキオは、再び無線のスイッチを入れ、言った。

『テーブルの下を見てみな』

 「テーブルの下だ!」と隣室からジュアンが叫ぶのが聞こえる。
 「よし」とタキオは呟くと、ロミに向かって合図した。 ロミは頷くとテーブルから降り、給仕たちの間を縫ってタキオの方へ向かい、彼から鍵を受け取ると、そっと外の様子を窺った。

 会場の前に一人、黒服が中の様子を見守っている以外に、フロアに人気はなかった。

 そのことを確認すると、ロミは疾風のごとく飛び出した。ほとんど一秒で、隣の会場の出入り口に到着し、黒服の背中を蹴りつけ、 開け放たれていた扉の内側に彼が放り込まれるのを最後まで見届けない内に、全力で扉にぶつかる。

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