――エイト・フィールド以外の人間には極力被害を与えまいとするタキオの計画は、結果的に、ほとんど上手く行った。 自らの意志でユニコーン号と運命を共にした船長以外、乗客や船員に犠牲者はいなかった。

 しかし沈み行くユニコーン号の上で人々が感じた死の恐怖は、どれ程のものだっただろう。

 同じ恐怖は、ニルノも感じた。

 首尾よくエイト・フィールドの幹部連中を閉じ込めたニルノたちが、走って降りた時にはもう、甲板は恐慌状態になった 群集で溢れていた。
 彼らの表情と、傾きつつあるユニコーン号を見たニルノは、思わず体を震わせた。――タキオはなるべくゆっくり沈むよう、計算して爆弾を仕掛けたと言ったが、  船が沈む速度を思うが侭にコントロールすることなど、誰に出来よう? 沈む速度は確かに遅いが、何かの拍子に、船が真っ二つになるかも 分からない。

 我が子を一刻も早くボートに乗せようと、抱き上げて群集を掻き分ける父親。泣き叫ぶ母親。金をやるから先に乗せろと怒鳴る 者たち。そんな人々に押し潰されないよう、しっかりと寄り添う老夫婦。

 ポーチの中のカメラを取り出していれば、間違いなく後世に残る一枚が撮れていたはずだ。
 しかし群集にもみくちゃにされながら、ニルノには、とても出来なかった。
 それは己の犯罪の証拠となるだけではない。何より、こんな事態を引き起こしたのは、自分なのだ。

「どうか皆さん、落ち着いてください」

 恐慌の最中、聞き覚えのある声がして、ニルノはそちらを見た。群集の頭越しに、パーサーの制服を着た若い青年が見えた。

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