アリオにも手伝わせ、角砂糖の山に挑む蟻さながら立ち働いていると、やがて、船倉に誰か入ってくる音がした。
 エイト・フィールドか、とオリザは手を止め、山猫のように身を伏せると、積荷の山の上から、下を見下ろした。 しかしそこにいたのは、血相を変えた老人と、その秘書と思しき青年だった。

 赤いランプに照らされ、顔中の汗が血のように見える老人には、見覚えがあった。
 今回オークションに招待された客の中でも一、二を争う資産家、フェリス・コンツェルン総帥だ。
 スーツケースを抱えて息を切らす秘書に、総帥は怒鳴った。

「何としてでも見つけ出せ! 六億も支払ったんだぞ!」

 と、その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、船倉の奥の方から、アリオの間抜けな声が上がった。

「あれえ? こんなとこに、女の子がいるよー」

 二人はぎょっとしたように顔を見合わせたが、すぐに総帥が、老人とは思えぬ勢いで奥へ走る。オリザは山の上で体の向きを変え、 彼の行き先を目で追った。

 船倉の奥で、アリオがしゃがんでいた。彼の前には、壁に背をつけるようにして、一組の少女が座っていた。彼女たちが双子であることは、 一目で分かった。彼女たちは、それぞれの手首と壁のパイプとを、一つの手錠で繋がれていた。 まだ年端も行かぬ双子の姉妹は、無表情な目でじっとアリオを見つめた。

「あ、君たちってよく見たら、一日目のオークションに出品されてた『一つ頭の双子』じゃない」

「どけ!」

アリオの背後に現れた老人は、そう言うなり、杖で彼の頭を殴った。アリオは呆気なくその場に倒れた。

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