全く、この船旅で、何度頭を床にぶつければ気が済むのだ。オリザはアリオの頭に同情を覚えつつも、手出しはせず、じっと成り行きを見守った。

 老人は足で乱暴にアリオを脇によけると、双子の元にしゃがみ、手錠を外そうとした。しかし、鍵もないのに外せるわけがない。秘書が後ろから 走ってきて、泣き声で言った。

「総帥! 早くしないと、救命ボートに乗れなくなります!」

「ええい!」

と老人は焦った声を上げるなり、片方の少女の手首を捻った。少女の、棒のような手首が、ボキッと嫌な音を立てた。

 その途端、二人は同時に悲鳴を上げ、「痛い」と泣き出した。
 彼女たちの悲鳴に構わず、関節を外した手首から手錠を抜くと、老人は秘書に二人を背負わせた。

「くそ、誰だ、船に爆弾なんか仕掛けやがった奴は!」

誰にも答えられぬ問いを空虚に浴びせると、スーツケースと少女二人を背負わされた哀れな秘書を連れ、老人は船倉から去った。

 オリザは軽くため息をつき、ふと足元の箱に貼られた札に気づいた。錠を撃って蓋を開けると、中にはさらにいくつもの箱が入っていた。 オリザは箱をかき回し、その中からようやく、目当ての物を見つけた。

「『ネリダ博士の研究レポート』」

 赤いランプの下に現れたノートは、黴臭く、今にもバラバラに壊れそうだった。
 オリザはそっとノートを取り上げると、愛しげな手つきで撫でた。

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