ようやく辿り着いた甲板の上は、まるで、戦場のようだった。

 船員たちの手によって、次から次へと救命ボートが下ろされ、そこにオレンジ色の救命胴衣を着た人々が、我先にと乗り込もうとしている。 右舷と左舷に分かれ避難を指示する、一等航海士、二等航海士が、拡声器で、子供と老人、女性を優先するよう呼びかけている。 そうしている間にも船はまた、傾く。人々は悲鳴を 上げ、甲板の手すりや、近くの物に掴まろうとする。誰かの靴、バッグ、そしてデッキの椅子やワインの瓶、グラスが、甲板を転がり、 ある物はそのまま手すりを飛び越え、海中へ没していく。

 片方の手でアリオを、もう片方の手で扉の取っ手をしっかり握り、オリザは冷静に船の様子を観察した。
 ユニコーン号は、船尾を下に沈みかけている。しかし甲板が浸水している部分はまだどこにもなく、船が沈む速度自体も、かなりゆっくりしているようだ。 航海士たちも、そのことを必死に呼びかけている。

「落ち着いてください! 船が完全に沈むには、時間がかかります! ですから、まずは子供と老人を先に!」

 と、そこへ、フェリス・コンツェルンの総帥が、杖で人々をかき分けるようにしてやってきた。後ろには、双子を担いだ秘書が続いている。
 彼は左舷へ行き、今まさに乗客を満載して海上に下りようとしている、一艘の救命ボートに声をかけた。

「おい、わしとこいつを乗せろ!」

救命ボートの中から、士官が首を横に振る。

「無理です。このボートは、もういっぱいです」

「何だと?」

老人は額に青筋を立てて怒鳴った。

「わしを誰だと思っている! フェリス・コンツェルン総帥だぞ!」

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