エイゴン第四十三市、通称ミドガルドオルムは、姉内(シナイ)山山中にある、小さな鉱業の町だ。

 昼は、峻険な岩山にかじりつくように広がり、植物もろくに生えぬ、岩肌そのもののような町が、夜になると、 魔法にかけられたように幻想的な町に変わる。特殊な地下エネルギーによってオルム晶石となった、紅玉、青玉、金剛石、緑柱石、紫水晶などが、 地表近くで、夜灯無しで歩けるほど輝く為だ。
 その幻想的な夜景を楽しむ為、交通の便の悪さを押してでも、観光客は年中やってくる。そのピークが、初秋に行われるオルム祭りだった。

 狭い通りを、動物の頭をかぶった人々が、山車と共にねり歩く。高低差の激しい町中を登り、オルム晶石の採掘場近くにある祠を目指す。 それだけと言えばそれだけの祭りだ。
 しかし、独特の囃子、七色の光に足元から照らされる獣頭の人々、あちこちに飾られた赤提灯、そしてオルムランプや、小さな宝飾品、 玩具などが道の脇の屋台で売られる光景は、少年の時に迷い込んだ異界の記憶を呼び覚ますような、独特の気配を帯びていた。

 今年の祭りも人の入りは上々。山車は恙無く採掘場へ向かい、観光客たちは幻想的な雰囲気に酔いしれている。
 しかし、その陰で、不吉な噂が流れていることを、観光客たちは知らない。

「……ところで、墓荒らしは、結局どうなったんかいのう」

 行列が、ほとんど百八十度ある曲がり道を曲がり、さらに一つ上の通りへ上っていくのを見送りながら、ブリキの玩具を売っていた 屋台の老人は呟いた。

「あら、爺さん、知らないの」

耳ざとく聞きつけた、隣の屋台の初老の女が言う。

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