下るに連れ、ますます祭りの喧騒は遠くなっていく。住宅地はすでに人通りも少なく、酔っ払った鉱夫たちが数人、 千鳥足で歩いている。住宅地の下、一対の巨大な猫の像が門になった売春街の奥で、男女が腕を組みながら笑っている。

 彼らを横目にくねった階段を下っていくと、次第に足元が暗くなっていく。鉱物に特殊な影響を与える地中エネルギーは、 ミドガルドオルムでも採掘場を中心とした一点に集中しており、町の最下層ともなれば、普通の地面と変わらない。

 地中のオルム晶石が少なくなっていくに連れ、老人の手元のオルムランプは、紫がかった赤い光を強く放ち始めた。 そこで老人は、石と水を入れたガラス玉が、林檎の形をしていることに気がついた。随分良い品をくれたのだな、と思いながら、 老人は墓場の前で足を止めた。

 町の最下層にある墓場は、地中のオルム晶石も完全に無くなり、真っ暗だった。少しばかりのヒースが茂る広大な荒地のあちこちに、 御影石の墓石が立つ様子は、いかにも寂しく、昼間でもなるべく来たくない場所だ。夜ともなれば、なおさら。

 しかし墓場の入り口に立った老人は、妙だな、と首を傾げた。

 息子を含めた自警団の人間が番をしているはずなのに、明かりの一つも見えない。

 まさか祭りの喧騒に誘われ、番を放り出したのではあるまいな、と思いながら、老人はゆっくりと墓場へ足を踏み入れた。

 オルムランプの赤い光が、辺りを照らす。乱立する墓石、故人の名を刻んだ卒塔婆。虫の音がリイリイと響く。
 まだまだ残暑の厳しい九月だが、夜となると、流石に肌寒い。
 しかし腕に鳥肌が立つのは、単に気温のせいだろうか?

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