すっかりしょぼくれた目をこすりつつ、壁の隙間に顔を寄せると、雨上がりの牧場に、ジーパンを履いた少女が二人、 手を取り合うようにしてこちらを見ていた。
 一瞬気づかれたのかと思ってぎょっとしたが、そうではなかった。彼女たちが見ているのは、小屋の前で草を食む一頭の雌牛だった。 そのすぐ側に、セムと、見慣れた作業着の男が一人、立っている。

 ああ、とレインはすぐに納得した。これから牛の種付けをやるのだ。

「交尾って、つまり、えー」

「やるってことだろ」

ひそひそと囁く少女たちに、坊主頭の少年が三人、後ろからにやにやと言う。少女たちはやだあ、と笑う。セムは何となく、 不機嫌な表情だ。

「牛の発情期は大体三週間サイクルでね」

 作業着の腕をまくり、肩まで届く長い手袋を嵌めながら、人工授精師は親切に説明した。

「こうしてまず牛の肛門に手を入れて……」

 言うなり、何の躊躇もなく、人工授精師は雌牛の肛門に手を突っ込んだ。

 セムもレインも見慣れた光景だが、女子二人は小さく悲鳴を上げる。頭を丸刈りにした男子たちも、口々に「うえっ」と呻いた。

「汚くないんすか?」

「その為の手袋だからね〜。で、こうして直腸から子宮の位置を確認して……」

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